<不妊症の定義> 世界保健機構( WHO)では2009年から不妊症を「1年以上の不妊期間を持つもの」と定義しています。米国の生殖医学会でも2013年に、「不妊症と定義できるのは1年間の不妊期間を持つものであるが、女性の年齢が35歳以上の場合には6ヶ月の不妊期間が経過したあとは検査を開始することは認められる」と提唱しています。日本でも1年以上妊娠しない場合に不妊症と診断。年齢が高い場合には、妊娠しない期間が1年未満でも、より早期に検査と治療を開始したほうがよいという考えが一般化してきています。(日本生殖医学会HP参照)
下の記事の卵巣の予備機能の低下や、卵子の老化のことを考えると時間はとても貴重です。
<原子卵胞は増えることはなく、減る一方> 自分の原子卵胞の残りの目安を知るための検査として、アンチミューラリアンホルモン検査があります。AMHの値が低い場合、卵巣の予備能力は低下していることが考えられます。しかしAMHが低ければ妊娠できないというわけではありません。(AMH≠妊娠率) 月日を追うごとにどんどん使える原始卵胞が少なくなっていくので、AMHの値が低い方で不妊治療を考えているという方はなるべく早めに治療をスタートした方がよいでしょう。
<卵子の老化> 原始卵胞が年を重ねると、排卵が行われても、卵子が卵子としての機能を失っている状態が多くなります。また、染色体異常をもつ卵子も増えてしまい、染色体異常を持った卵子は受精卵になったとしても育たない、育っても着床しない、着床しても流産してしまうという事が多くなります。
<不妊治療の流れ>
*一般不妊治療STEP1:タイミング療法STEP2:人工授精 *ART治療STEP3:体外受精・顕微授精+胚移植
どの段階で妊娠できるかは人それぞれ違います。最初で妊娠する人もいれば、最終段階まで進む人もいます。不妊治療のステップアップの進め方は、クリニックや治療を受ける方の考え方で調節することができます。早く妊娠されたい方は早めのステップアップを、自然な妊娠を望む方は一般不妊治療に少し時間をかけてから、段階を踏んでステップアップをしていくのもよいでしょう。また、その方の年齢や不妊の原因によって、治療方針が変わるため、35歳以上の方・合併症がある方・不妊期間が長い方は、早めのステップアップや場合によってはART治療から開始することもあるでしょう。主治医とよく相談をして治療を進めてもらいましょう。
当院の不妊に関する鍼灸治療全身状態を整え妊娠しやすい身体づくり、子育てに備えた身体づくりをしていきます。鍼灸の効果は人それぞれ異なりますが、治療を開始して2~3ヶ月経過する頃、ご自身の身体の変化を実感する方が多くいらしゃいます。当院では、月に2~3回の治療に加え、治療と治療の間の期間に自宅で行うセルフ灸を積極的にとりいれてもらっています。 当院の不妊鍼灸治療は、現代医学に基づく鍼灸治療をベースとし、子宮・卵巣の血流動態の改善、ストレス緩和、不定愁訴の改善を目的とした治療を行います。
不妊カウンセラーの資格を持つ院長が、皆様を心身ともにサポートしていきます。
妊活をきっかけに鍼灸を経験した方も、今から元気な身体作りを心掛けることは、いずれ訪れる更年期や老年期を健康で過ごすための土台作りとなります。
<不妊に対する鍼灸のメカニズム> 不妊に対する鍼灸の効果についてまだ一定の見解は得られていないのが現状です。しかし、基礎研究の結果からは、鍼治療が神経内分泌系や子宮・卵巣の血流動態、ストレスへの作用を介して妊娠するための力に影響を及ぼすと考えられています。 ①神経内分泌系の調節・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の無排卵➡規則的な排卵を生じたと報告されています。・卵胞液中のニューロペプチドYを増加させたことから、鍼通電療法が卵巣の機能や卵胞の発育、排卵の調節に影響を与える可能性があると示唆されています。 ②子宮と卵巣の血流動態・卵巣と子宮の適度な血流は妊娠とその維持に必須で、妊孕能の向上と関連する。子宮動脈の拍動指数(PI=血管抵抗)が高いとIVF・ET後の妊娠率の低下と関連すると言われている。Stener-Victorinらは、不妊女性の鍼通電治療が子宮動脈のPIを低下させたことから、鍼は子宮の血流動態に影響を及ぼしている可能性を指摘しています。・卵巣血流に関する動物の検討で、鍼通電療法が卵巣血流や卵巣の交感神経の調節にかかわることも示唆されています。 ③ストレス・不安・抑うつ・抑うつや不安はIVF-ET後の妊娠率と関係し、ストレスの軽減は妊孕能を高めるという報告があります。Isoyamaらは、ハミルトン不安評価尺度(HAS)が鍼治療群で優位に低下したことから、IVF-ETに伴う不安を軽減させるのに有効とされています。・鍼治療における採卵の疲労と混乱の低下・コルチゾールの低下・交感神経活動の低下などの報告もあり、複合的な効果がストレスを軽減させると考えられています。 (参考文献:鍼灸臨床最新科学 メカニズムとエビデンス 川喜田健司 矢野正 編集 医歯薬出版株式会社 2020年)
<東洋医学的にみた不妊症>
①腎虚(腎:生命の素⦅成長・発育・生殖⦆、生きるために必要なエネルギーをためる場所)月経が始まるのは、腎の気の働きとされています。28歳ころがピークとなり、49歳になると腎気が衰えてきて、月経がなくなり子供を作ることができなくなります。月経や妊娠・出産に関して、一番大切な要因が腎の気になります。この腎の気の力が十分でない(虚である)状態が不妊の要因とされています。 ②肝鬱(かんうつ)肝鬱は、イライラやストレスが溜まっている状態です。血と深い関係にある肝の機能が低下すると、気(エネルギー)血(栄養・酸素)の流れがスムーズにいかず、妊娠に影響を与えると捉えています。 ③痰湿痰湿は、肥満傾向や脾(消化吸収を司る)や腎の機能低下の人が食べ過ぎることで、湿の問題(水分代謝)がおき、気血の流れが悪くなり妊娠に影響を与えると捉えています。 ④血瘀(けつお)血の流れが悪いことにより生じるもので、慢性的な下腹部の血流の悪さがあげられます。症状として、冷え症・月経痛などがあり、妊娠にも影響を与えると捉えています。
(参考文献:レディース鍼灸 矢野 忠 編著 医歯薬出版 2018年)