<線維筋痛症とは> 3ヶ月以上の長期にわたって、身体のあちこちの広い範囲に痛みが出没し、身体の強いこわばりとともに、激しい疲労感、不眠、頭痛やうつ気分など多彩な症状を伴います。しかし、病気の原因はまだよくわかっていません。通常、さまざまな検査を行っても、特別な異常がみられないことから、わが国では線維筋痛症の診断が遅れることがしばしばあります。関節リウマチより多い病気で、約200万人の線維筋痛症患者がいますが、命にかかわる病気ではありません。男女比は、1:4.8と女性に多い病気で、発病年齢は40歳後半の年代に多いとされています。現在のところ線維筋痛症を完治させる治療法がなかなかないため、日常生活への影響が大きく、しばしば社会生活が著しく困難となることが大きな問題となります。
<アメリカリウマチ学会(ACR)の線維筋痛症診断基準>
①広範囲にわたる疼痛(疼痛の広がり)があること②触診の際に圧痛点(押すと痛みを感じる場所)が基準の18カ所のうち11カ所以上認められること③3カ月以上継続する慢性疼痛であること
<線維筋痛症の原因> 線維筋痛症の原因はいまだ不明です。末梢神経からの痛み刺激を脳に伝える上行性経路において中枢の興奮経路が賦活化(活性化)され、さらには脳から末梢神経へとつながる下行性の疼痛抑制(痛みを抑える)経路にも障害が起こることにより、痛みが中枢において増幅されてしまうこと(痛みの中枢性感作)が疼痛をきたす原因と考えられています。
<治療>薬物療法と非薬物療法があります。
<東洋医学的に見た線維筋痛症>線維筋痛症の原因は、神経の伝達に障害が作用していると考えられています。東洋医学的には瘀血と病態によるものと第一に考えます。瘀血とは、わかりやすく言えば血行障害のことです。・冷え・湿気などが体に悪影響を与える・その結果、瘀血が発生する・瘀血は血行不良を引き起こし、血行不良は酸素や栄養の供給不足をひきおこす・そのため神経及びその周囲の組織は、痛みや痺れというサインを出す身体の内側でこのようなことが起こっています。そのため、次のようなことが必要になります。①冷えや湿気が引き起こした症状を改善していくこと②神経やその周囲の組織に発生している瘀血を取り除いていくこと③体全体の気・血・水の流れを改善させ不測の内容補うこと
<線維筋痛症と鍼灸治療> 鍼灸治療が線維筋痛症の痛みに対して効果的な理由は生体内の鎮痛系と大きく関係していると考えられています。鍼通電を行うことで、体内の異なる鎮痛物質が放出されることが知られています。それらの鎮痛物質が何らかの形で鎮痛効果を発揮していると言われています。
🌷当院の線維筋痛症の治療 まず、頭部や四肢末端へ鍼電極低周波治療器を使用し、の鎮痛系に働きを活発化させる治療を行います。同時に痛みを感じている骨格筋などへの局所の治療で血流の改善も行い、痛みをを軽減し生活の質(QOL)の向上を図っていきます。当院は体全体を診ますので、冷えや湿などで不調のあるところも治療を行っていきます。
<線維筋痛症と鍼灸のエビデンス>
線維筋痛症の鍼灸治療については、中程度のエビデンスレベルがあり有効性を提案するとされています。2013年Deare JCらの報告によると無治療群または標準治療群と比較して低から中レベルのエビデンスがあり患者の痛みやこわばりを軽減させます。痛みや疲労の減少、睡眠や全体的な健康度の改善に対しては中程度のエビデンスがあると言われています。鍼通電は、マニュアル鍼刺激より痛みやこわばりの減少、さらには全体的な健康度、睡眠、疲労の改善し、この効果は1か月程で、6か月間の持続の効果は認められないそうです。これらのことを考慮すると、定期的に鍼灸を受けることで、少しでも快適な生活が送れるのではないでしょうか。 参考文献:線維筋痛症ガイドライン 2017 一般社団法人 日本線維筋痛症学会 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構線維筋痛症研究班
また、線維筋痛症の方は、痛み以外にも様々な症状(不定愁訴)を訴えます。鍼灸の刺激には、体性ー自律神経反射(体性-内臓反射)を介して各臓器の機能を調整すること、自律神経系や免疫系にも作用することが明らかになっています。さらに、セロトニンやドーパミンが増量し、うつなどの精神症状にも有効な可能性が高いとされています。鍼灸治療は、痛みの治療としてだけでなく、内臓機能の調整や精神的ケアまで様々な症状に対して期待できることから、多彩な症状を訴える線維筋痛症の治療に特に有効と考えられています。
(参考文献:鍼灸臨床最新科学 メカニズムとエビデンス 川喜田健司 矢野正 編集 医歯薬出版株式会社 2020年)